概要

 本学では従来、認証評価機関が定める基準に準じた自己点検・評価に加えて、学内各組織が自主的に目標や評価基準を設定し、諸活動の点検・評価を行っていました(2018(平成30)年度分まで実施)。
 この自己点検・評価の仕組みは、内部質保証体制の充実を図っていく中で、2021(令和3)年度から「教育推進活動」の自己点検・評価としてリニューアルしました。

 全学の教育目標や各ディプロマ・ポリシーで示される資質能力の修得・向上に対して直接的な効果が見込まれる、正課教育を補完・補強・改善する組織的な教育プログラムを「教育推進活動」と定義し、点検・評価を行っています。

 教育課程の編成・実施に責任を負う学内の組織(大学の学科、大学院の専攻、全学共通教育部等)が、教育目標や卒業の認定に関する方針(ディプロマ・ポリシー)の達成に寄与しているかという観点から、自ら実施している「教育推進活動」の有効性や妥当性を検証し、自己点検・評価を行っています。
 内部質保証の推進に責任を負う全学的な組織(内部質保証委員会)は、各組織の自己点検・評価結果に対する評価を行い、各組織のPDCAサイクルのサポートをするとともに、全学として成果検証を行うこととしています。
 また、点検・評価結果を学内に公開し、事例の可視化・共有を図っています。

事例の紹介

 本取り組みは2021(令和3)年度に開始しましたが、各組織の活動は複数年度にまたがるものが多く、総括的な成果検証はまだできていません。今後、各組織の活動を総括し「実績報告書」を作成・公開する予定です。
 ここでは、各組織による「教育推進活動」と点検・評価結果の概要をいくつか紹介します。

初年次教育における文書作成能力を高める教育活動(文学部英語英米文学科)

 文学部英語英米文学科では、口頭でのプレゼンテーション能力については、英語のスピーチコンテスト等を通じて到達度を検証してきましたが、文章能力についてはこれまで各授業科目内での養成に留まっていました。

 そこで、学科全体のトピックとして文章能力の養成をあらためて取り上げ、養成の仕組みを設計しました。具体的には、卒業論文の執筆に必要な論理的な文章作成能力を初年次から段階的に高めるために、必修科目である「基礎セミナーⅠ」(前期)・「基礎セミナーⅡ」(後期)で以下のような活動を展開しています。

  • 前期は、入門レベルの文献を読み取る力や必要な情報を調べる力を養い、期末にレポートを課す。なお、文献読解の指導時には、自分の書く文章の参考とするよう意識するように指導する。
  • 後期は、前期末に各学生が提出したレポートを批評し合い、「どのように文章を書けばよいのか」を体験的に学ぶ機会を設ける。また、前期レポートの内、優れた内容のものをLMS(学習管理システム)上に例示する。
  • 今後、後期末に課す最終レポートは、優秀なものをLMS上に公開して、次年度の1年生が閲覧できるようにする計画である。その際、参考にしやすいように、高評価となったポイント等について教員のコメントも掲載する。

 活動初年度の成果として、前期と後期のレポートを比較すると質・量ともに進歩が見られました。
 今後は、初年次の学習成果が2年生以降にも良い影響を及ぼすのか等を検証する予定で、成果次第で本活動を上の学年にも拡大すること等を検討しています。

複数教員による指導体制での高度専門職業人の養成(文学研究科日本史学専攻)

 文学研究科日本史学専攻では修了後の進路として、研究者のみならず博物館学芸員や文化財専門職等も想定し、卒業の認定に関する方針(ディプロマ・ポリシー)でこのような高度な専門的職業人に相応しい能力の修得を掲げています。そして、専門的職業人に求められる能力の構成要件の1つとして、自分が専攻する時代・分野に留まらない幅広い視野・知識が必要であると考えています。

 そこで、研究指導教員だけでなく、他の専門分野の教員の指導も積極的に受けることで、専門的職業人に必要な幅広い視野・知識を身につけられるようにしています。指導に際しては、教員間で連携しながら、学生個々人の基礎的な研究スキルの修得度合を確認・補完しつつ、将来の進路に合わせて指導方針や指導内容の調整を行っています。学外実習等も複数教員で指導し、研究と実務に必要な複眼的視点を獲得できるように図っています。

 例えば、考古学は文献史料ではなく遺物や遺跡によって人類史を研究する学問ですが、本専攻で考古学を研究する学生は、研究指導教員に加えて古代史専攻の教員の指導を受け、文献史学の方法も学びながら、自身の研究テーマに関してアドバイスを受けることができます。
 また、論文発表会の場では、外国史を専門とする教員も発表内容に対してコメントを行っています。

 本活動は修了者の進路状況を成果検証の指標としていますが、2021(令和3)年度に前期課程を修了した学生2名全員が専門職として採用されました。今後も複数教員による指導体制を敷く予定です。

学外実習中の1コマ

修士論文発表会の様子

学生の主体性を重視したワークショップ(教職支援センター)

 本学は、全学的な組織として教職支援センターを設置し、教員を志望する学生に対して様々なサポートを行っています。サポート内容は、各種の情報提供や一般的な筆記・面接試験対策講座等に留まらず、採用後の活躍に必要な実践力の養成にも及んでいます。

 この実践力養成の一環として、学生の主体性を重視した一連のワークショップを展開しました。このワークショップでは採用試験対策を「学びの集大成の場」と捉えなおし、協働的な学びを通じて意欲・意識の向上を図りながら、以下のような取り組みを行いました。

  • 「どのような教師を目指すのか」、「なぜ他の職業ではなく教員なのか」、「どのような子どもを育てたいのか」、「その自治体で教員としてどのような貢献ができるのか」等の教員としての原点となる事柄を、一連の取り組みの初めに徹底的に考える。
  • 採用試験当日までの、全体的な計画と月・週・日単位の計画を自ら作成する。
  • 面接の練習では、互いが面接官役になり、感想・助言をフィードバックする。
  • 集団討論では、参加者が喫緊の教育課題等について事前調査を行ったうえで自らテーマを設定する。討論終了後には、相互評価と改善案に関する意見交換を行う。
  • 模擬授業では、教師役以外の参加者が児童生徒役になり、子ども目線でのフィードバックを行う。
  • 採用試験合格者と下級生との学び合いの機会を設ける。

 また、コロナ下での支援として、オンラインの質問・相談ブースを常時開放しました。これは、通学制限下で学生の便宜を図るとともに、複数の学生が同時にブースを利用しようとした際に、相互の助言・コーチングを促す等して、学び合いの場としても機能させました。

 上記のような取り組みの成果として、コロナ下にも関わらず採用試験の合格者が大幅に増加しました(コロナ前:2019年度68名→コロナ下:2020年度102名、2021年度115名)。

 今後も取り組みを継続するとともに、更なる改善のために、各学科やライブラリーコモンズとの連携強化、採用試験合格後のアフターケアの強化、採用試験受験者の増加等を図る予定です。